仙台市宮城野区にある株式会社奥羽木工所でおきた、労評分会員に対する不当な懲戒解雇事件について報告します。
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A分会員は1985年に守屋木材株式会社に入社し、木製家具製作に携わってきました。のちに守屋木材から株式会社奥羽木工所に仙台港工場を営業譲渡としてからも、60歳定年までの38年間、長年にわたり勤務してきたベテラン労働者です。
2014年に結成された労評奥羽木工所分会の組合員として、さらには2代目の分会長として、積極的に組合活動にも取り組んできました。
ところが、定年を迎える2022年11月30日、会社によって懲戒解雇を言い渡されたのです。いったい、何があったのでしょうか。
〇定年後、嘱託再雇用における問題点
A分会員は2022年4月に定年を迎える予定で、その年の1月には嘱託再雇用の希望を工場長に通知していました。現在、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」により、嘱託を希望する労働者に対しては65歳まで雇用することが義務化されているので、会社は拒否できません。
A分会員は賃金について、一定の減額は念頭に置きつつも引き続き切断班での勤務を希望し、賃金に見合う労働の仕方などについて話し合うつもりでした。
ところが、会社は嘱託再雇用開始日の2日前に契約書を提示したため、具体的な検討時間もなく、また交渉時間もありませんでした。
提示内容としても①賃金が約6割に減額される。②勤務場所については希望する切断班ではなく縁貼班ということでした。
そこで、A分会員は、大幅な減額の理由と、これまで他の労働者は継続して同じ勤務場所で働いているのに、どうして自分だけ異動となるのか、その理由を工場長に聞きました。
工場長は、①再雇用で賃金が下がる。②下がった賃金に見合う同一労働、同一賃金で軽微な作業に移動してもらうという説明をしました。
A分会員は、①大幅な減額についての賃金交渉と②勤務場所については、切断班でも作業内容の見直しができることや、他部署へ異動する必要性もないこと(移動先の部署で働く労働者が玉突きで異動になり、未経験の仕事に従事するため教育体制の確保、そのための追加の人事配置が必要になる)から、即座に合意せず、労評奥羽分会として、団体交渉を行うことを要求しました。
会社は具体的契約事項について、「賃金について団体交渉を要求されてり、これには当然応じますが、会社としてはA組合員に4月以降も働いてもらう以上、5月から会社提示の賃金をA組合員に支払う予定です(なお、会社が提示している賃金額を受領したことをもって会社提示の金額に同意したとの主張はしません。)」(4月18日付回答書)と回答し、団交とそこで賃金額を交渉することには合意しました。
そこで、A分会員は、賃金や勤務場所が決まらないまま、契約書に押印することなく、切断班で嘱託として働き始めたのです。
〇事実上の団交拒否と異動命令の強要
ところが、いざ働き始め、団体交渉を開始すると、会社は「賃金6割は決まったこと」、「人事異動は業務命令」であり「人事権は会社の専権事項」という回答を繰り返し、交渉に一切応じようとはしません。
勤務前に「会社が提示している賃金額を受領したことをもって会社提示の金額に同意したとの主張はしません。」と正式回答しているにもかかわらず、賃金についての実際交渉を行わなかったのです。
もともと賃金を下げるからそれに見合う勤務場所に異動するという説明でした。前提となる賃金の交渉を行わないなら、賃金も確定せず、当然、それに見合う勤務内容への異動も成り立ちません。
しかも異動の理由について、年齢による体力低下があるとの理由が追加され、裁判が始まってからは、突然、多能工化のためだと言い始めました。体力低下してもできる軽微な作業であるにもかかわらず、多能工化というのは変ではありませんか?はじめは賃金を下げるからといいながら、どんどん理由も変わっていったのです。
会社は、形だけ団交に応ずる形で賃金交渉をせずに、異動命令だけ乱発(5月19日、6月1日、6月21日、8月31日、9月20日、10月5日)したのです。
〇懲戒解雇処分から裁判へ
そして、賃金も勤務場所も決まらないのに、異動命令に従わないことを理由に、いわば、命令違反を外形的に作り上げて、2022年11月30日、懲戒解雇処分を通知してきたのでした。
これは、団体交渉に誠実に応じない組合への不当労働行為でありつつ、一人の労働者の人生を踏みにじる極めて重大な人権問題です。会社はいくらでも理由をつけて、ただ労働者は命令に従えばいいという、完全なモノ扱いです。まさに会社の労働者支配そのものではありませんか。
そして、A分会員は2023年5月仙台地裁に提訴しました。「納得して働きたい」、「皆で力を合わせて良い商品を作りたい」それが労働者の想いです。「話し合いをすると約束したのに、一方的に従えというのは間違っている」という正義を貫くことは、労働者の誇りと人権を守ることです。労働者の想いを原則に、組合は、懲戒解雇の撤回と謝罪を求め、裁判を行っています。